医療法人デンタルクリニックたかはし







 『口内フローラ』というあまり聞きなれた言葉ではありませんが、色々な細菌がいるお口の中で、口内フローラ(お口の中の細菌叢)が乱れると様々な病気に繋がることが分かってきていますが、それらは大きく分けると2パターンが考えられます。
 一つは、虫歯でできた穴や歯茎の炎症部分から細菌が血管に侵入し、病気を引き起こすような直接細菌が原因となる場合と、もう一つは炎症を起こしている歯周組織(腫れている部分)から持続的に供給される炎症物質(炎症性サイトカイン)が原因となる場合があり、例えば、歯周病で歯茎が腫れて炎症が起きている場合、サイトカインという物質が発生し、血管へ流れ込み、そのサイトカインが全身へまわり、心臓病や糖尿病など様々な病のリスクを高めるとされています。
 自分の体を守るための免疫力が、十分であればそれほど心配されることはありませんが、人間は加齢により、確実に免疫力が落ちるので、そのリスクは歳を重ねるごとに上がっていきます。
 これまで健康だった体が、急に変化するのもこのような影響が少しずつ現われてきた結果の一つと考えられます。そのため、40歳以降くらいから他人事とは思わず、相当、気を付けていかないといけません。
 イギリスの科学雑誌によると、お口の中の細菌と病気について新たな研究が発表され、特に虫歯の原因になる虫歯菌(ミュータンス菌)が微小脳出血に関与しているということが報告されています。
 微小脳出血とは、脳の毛細血管から出血がある状態で、大きな出血に繋がる恐れがあると言われています。
 虫歯のある人が微小脳出血を起こすリスクについては、虫歯菌の中でも特殊なタイプの虫歯菌(cnm遺伝子を持つ虫歯菌)を持っていると5~6倍微小脳出血を起こす確率が高くなります。通常、血管から出血するとコラーゲンなどと血小板が結合し、それらが血液を止める働きをします。しかし、cnm遺伝子を持った虫歯菌が血管内に入っていると虫歯菌がコラーゲンと結合し、血小板の働きを妨げるため出血が止まらなくなってしまいます。
 普段、虫歯と脳出血の関係について身近に考えることはないと思いますが、口腔衛生を保つことで脳出血の予防に繋がるということが示唆されたことは、脳出血になる可能性のある方は、虫歯(cnm遺伝子を持った虫歯菌)を持っているということが分かります。ほとんどの方のお口の中には、虫歯菌(ミュータンス菌)が存在しますが、cnm遺伝子を持った虫歯菌がいる方は、その中の1割程度と言われていますので、残りの9割の方はこの虫歯菌が存在しないということになります。
 しかし、コラーゲンに付着して悪さをするのはcnm遺伝子を持った虫歯菌でありますが、お口の中にはそれ以外にもいろいろな臓器に付着する虫歯菌が存在することが分かっていますので、血液中に虫歯菌が入った場合においては、何かしら問題が起きるリスクが高くなるため、決して安心はできません。
 血液中に虫歯菌や歯周病菌が入ることで、プラーク形成菌や歯周病菌が原因となる疾患(細菌性肺炎・細菌性心内膜炎)、歯周病が誘因となる疾患(糖尿病・動脈硬化・心筋梗塞・狭心症・脳梗塞・バージャー病・早産・低体重児)などの病気が発症してもおかしくない状態になるため、まずはその予防として毎日のセルフケア、定期健診は必要になってきます。
 現在、より詳しく口内フローラを調べるために唾液を採取し、唾液中の細菌と歯周ポケット内の細菌のメタゲノム解析(細菌の遺伝子情報を読み取り種類を特定)を行うことで細菌のDNAを抽出して遺伝子情報を読み取り、お口の中にどのような菌がどのくらいいるのか簡単に分かるようになってきています。但し、検査料など一般的に普及されるまでにはまだもう少し時間がかかりそうです。

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