人間は、動物のように生まれて直ぐに歩くことはできません。個人差はありますが、約一年(一歳)経つと前歯が生え始め、そのころにはなんとか二足歩行ができるようになります。歩けると言っても、重い頭が体の一番上にあり、まだ二等身のため、ふらついてしっかり歩くことはできません。
地球上には重力があり、体がしっかり安定し、足が地に着いていないと左右のバランスは取れません。約一年半後(一歳半)には体が三等身になり、奥歯も生え始め、かなり左右のバランスも取れて安定してきているように見えますが、骨格が未発達のため、まだまだしっかりした状態ではありません。4~5歳ぐらいになると骨格的にも安定感が増し、左右のバランスも良くなってきます。
しかし、このころから個々で遺伝・咬み癖・指しゃぶり・姿勢の影響が除々に現れてきます。
家族は勿論、周囲の大人たちが、注意して子供たちを観察してあげていないと気づきにくく、成長段階のため、そのまま悪い方向へ進んでいく可能性が高くなります。実は、子供の頃からの悪い影響に気づかず、大人になっている方が多くいるように思われます。大人になってから気づいた時には、骨格的なことが原因であれば、なかなか元に戻すことは難しくなります。
また、バランスが崩れていると、体の色々な場所に影響を及ぼし、年齢と共に徐々に現れてきます。
体の重心は、バランスの軸によって左右されます。バランス軸は、色々な位置で異なり、それぞれの位置には支持骨があります。それらの支持骨がずれると、バランス軸が崩れ、症状が現れます。私たちが見ている症状は、ほとんどが結果であり、原因の多くは他にあると考えられます。結果を治療しても、原因が他にあれば、症状はなかなか改善されることはありません。
例えば、急に左右どちらかの顎関節(アゴの関節)が痛くて口が開きにくくなったとします。一般的にこの症状の原因は、咬み合わせを疑います。しかし急性の場合、咬み合わせを調整しても治らないことがあります。顎関節は、上アゴと下アゴを繋いでいる関節なので、バランス軸がズレていると、当然、影響を受けて関節がズレます。影響を受けている場合の支持骨は、足首にあります。何故なら人間は二足歩行のため重心が左右に移動しやすく、バランス軸がズレやすいからです。
このことから立位の支持骨を疑い、そのポイントを見つけ出し調整することにより顎関節の痛みが取れ、口が開きやすくなることもあります。
このように結果を見て直ぐに治療するのではなく、症状をよく確認し、原因を追及することも大切ではないでしょうか。
普段、重心がずれているかどうか、自分では解りにくいことですが、確認しやすい方法があります。2つの体重計を用意してもらい、2つの体重計にそれぞれの足を同時に乗せて体重を測ります。
ほとんどの方は、左右の体重が同じではありません。本来、左右の体重は、同じであればバランスが取れていることになりますが、時間と共に体は左右どちらかに重心がかかり、対称ではなくなっています。
体重計を見ながら左右の数値が同じぐらいになった姿勢が、バランスの取れた状態の姿勢になります。
しかし、この状態のまま正面から見ると、左右どちらかに傾いて見えます。それだけ本来のバランス軸がずれて、重心が移動していることが解ります。このような状態であるはずなのに、普段、体を傾けて生活している方はいないと思います。
私たちは、体が傾いていると、自分で姿勢を真っすぐ直そうと、時間をかけてS字状に補正していきます。しかし、この自然補正することが、バランス軸をズラしてしまう原因なのです。普段から自分の姿勢を注意しながら観察し、早く気付くことが大切になります。 また、自分が注意していると、他の人の姿勢も気になってきます。
私たちは、朝起きて立ち上がった瞬間から二足歩行の生活が始まり、夜寝るときは立って寝ることはなく、横になったり、仰向けになったり、寝返りをして睡眠をとります。この毎日行われる動作もストレス・疲労・睡眠不足などが加わると、精神的にバランスが狂ってしまうこともあります。
体のバランスは、生活のリズムにも関係していて、リズムが狂ってしまうと体内時計も狂いやすく代謝が悪くなり、内臓にも影響してきます。
重心のバランスが整っていても、生活のリズムもきちんと整っていないと、健康な体を維持することはできません。
自分の体は、まず自分で毎日確認し、症状がなくても気になることがあれば、そのままの状態で放っておかないで、早く専門医に相談することが大切です。