日本では、当たり前のように知られている『うま味』ですが、『うま味』と聞かれてきちんと答えられる方が少ないように、今まで世界でも『味』として認められておらず、世界では4つの味『甘味・塩味・酸味・苦味』が基本的な味覚として認められてきました。
しかし、2002年に『うま味』を舌の上で感知する受容体(舌の味蕾の中にある受容体)が化学的に見つかり、『うま味』が味として認められるようになりました。
現在、他の分野においても『うま味』の研究が進められてきています。
『うま味』の種類には、グルタミン酸(昆布など)・イノシン酸(かつお節、肉など)・グアニル酸(きのこ類)がありますが、特に、たんぱく質が分解されてできたグルタミン酸の研究が進められています。
一般的に『うま味』の豊富なものとしては、豚肉はもともとイノシン酸ですが、塩を加え発酵・熟成するとグルタミン酸が増えます。スーパーなどでよく見かける熟成したハムやチーズの表面にはカビのような白い点が見られますが、これはグルタミン酸が結晶化しているものです。
しらすや干物は、塩を加え乾かすことでグルタミン酸の量が増加します。たんぱく質を多く含む野菜(にんにく、ブッロコリー、カリフラワー、豆もやし・グリンピース(豆類))などは、グルタミン酸が増加します。
歯科で『うま味』を取り入れた治療としては、『昆布茶』を使ってドライマウス(口腔乾燥症)の症状を緩和する方法があります。ドライマウスの症状としては、普段は口の中が乾きやすくピリピリしていて、何かものを食べると口の中が苦しく感じることが多く、食べたものがおいしくなくなります。
『昆布茶』がドライマウスに働きかけるメカニズムは、昆布茶を飲むと口の中にある『うま味』を感じる部分(受容体)がその成分を感知すると反射的に保湿に効果的な粘り気のある唾液が出てきます。
この唾液は、他の4つの味に比べ最も長く続くため症状を和らげることができます。つまり、口の中が潤うようになります。昆布茶の原理は、薬で治しているのではなく、口の中が乾燥しないようにするためのスイッチを押しているだけで、自分の体が治しているという感覚から、自然治療効果が期待されます。
『昆布茶』を使ったドライマウス予防法は、お湯(150ml)に対し、昆布茶に付いている昆布茶用スプーン3分の1(0.7g)の昆布茶を入れ、これを1日2~3杯飲むことで症状が改善されやすくなります。
☆ドライマウス対策『昆布茶』のメリット
①副作用がない (薬で治す方法もありますが、人によって副作用 が出る場合がある)
②粘り気のある唾液が出る (口の中の潤いが持続する)
③おいしい
味覚異常においては、今まで『甘味・塩味・酸味・苦味』の区別がつくと味覚障害ではないと判断していましたが、新たに『うま味』が加わり、『うま味』の判断ができないと『うま味』障害と判断されるようになりました。これにより味覚障害の治療の道が開けるになりました。
また、がん医療の現場においても、抗がん剤や放射線治療により『うま味』の感度が低下する傾向があり、それによって栄養状態が下がったり抵抗力や免疫力が下がったりして、治療を続投することができなくなって断念せざるを得ないケースがあるため、このような率を減らすためにも『うま味』の感度に着目した対策が始まっています。
さらに、この『うま味』は料理だけでなく、肥満の予防になる可能性が高いため注目されています。
その仕組みは、胃などの消化管にある受容体が『うま味』成分を感知すると脳へ信号が送られ、消化のスイッチが入ります。その時、『うま味』を感じると視床下部(食欲をつかさどる脳の中枢)の領域が高まり、つまり、その信号は脳の中の満腹中枢にも伝わって刺激され活動が高まり、満足感が得られるようになります。
私たちは、甘いものや脂肪分の高いものは美味しくて満足しますが、それらはカロリーの高いものになります。
『うま味』は、カロリーが少なくてもカロリーが高いものと同じような満足感をもたらすことが一つの特徴です。
また、『うま味』は、食事をとった後の新陳代謝を高める可能性があることも分かってきています。
一般的に、『うま味』を感じると食欲が増すように思われますが、実際は、満足感を早く感じることで食欲を抑えられることになるようです。